- 2025/06/27
- 【税務調査について】
2025年06月27日発行
税務調査とは?
税務調査とは、納税者が提出した税務申告の内容が、税法に基づいて適正に行われているかを確認するため、国税庁や税務署が行う調査のことです。納税の公平性を保ち、税法が正しく適用されることを目的としています。
1. 税務調査の種類
税務調査は大きく分けて「任意調査」と「強制調査」の2種類がありますが、さらに細かく分類することができます。
1-1. 任意調査(大半を占める)
納税者の同意のもとに行われる調査で、ほとんどの税務調査がこれに該当します。「任意」という名称ですが、納税者には「質問検査権」に基づき調査に応じる義務があります。
- 予告調査(事前の通知あり)
- 一般的に、税務署から電話や書面で事前に連絡があり、日程調整をした上で調査が行われます。
- 調査対象期間は通常、直近3~5年分です。
- 来署調査(簡易調査): 税務署に納税者が来署して帳簿などを確認する簡易な調査。
- 実地調査(一般調査・特別調査): 税務署職員が納税者の事業所や自宅に訪問して行う調査。
- 一般調査: 通常の調査で、2日程度の期間で行われることが多いです。
- 特別調査: 悪質な申告漏れが疑われる場合や、海外資産に関する申告漏れ、第三者からの情報提供、税務署が特定の業種を重点的に調査している場合などに、より詳細な調査として行われます。
- 無予告調査(事前の通知なし)
- 現金商売が多い業種(飲食店など)や、過去に不正を指摘された事業者など、事前に通知することで証拠隠滅のおそれがある場合に、予告なしに行われることがあります。
1-2. 強制調査(査察調査・マルサ)
国税局査察部(通称「マルサ」)が行う調査で、裁判所からの令状に基づき強制力をもって行われます。主に多額の脱税や悪質な不正が疑われる場合に実施され、証拠の押収なども行われます。脱税が発覚した場合は刑事事件として扱われ、逮捕される可能性もあります。一般の納税者にはほとんど縁のない調査です。
2. 税務調査の手続きの流れ(任意調査の場合)
一般的な任意調査は、以下の流れで進められます。
2-1. 事前通知
税務署から、納税者または顧問税理士に対し、税務調査を行う旨の電話連絡や書面での通知が入ります。この際、調査の目的、対象となる税目、期間、開始日時、場所、調査の対象となる帳簿書類などが伝えられます。
2-2. 日程調整
税務署職員と連絡を取り、納税者や顧問税理士の都合に合わせて調査の実施日を決定します。正当な理由があれば、日程変更も可能です(例:一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情など)。税理士の立ち会いを希望する場合は、税理士との日程調整も重要です。
2-3. 事前準備
調査日までに、税務署から伝えられた期間の帳簿書類や資料を整理し、準備します。顧問税理士がいる場合は、事前に打ち合わせを行い、想定される質問への回答なども準備しておくとスムーズです。
主な準備資料:
- 申告書類: 所得税申告書、法人税申告書、消費税申告書、決算書、内訳書など
- 帳簿関係: 総勘定元帳、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳など
- 売上に関する資料: 見積書、契約書、納品書、請求書、領収書(控え)
- 仕入・外注に関する資料: 見積書、契約書、納品書、請求書、領収書
- 経費に関する資料: 請求書、領収書、支払明細書など
- 棚卸表: 期末の棚卸資産に関する資料
- 預貯金関係: 会社の預金通帳(定期預金、積立預金を含む)、個人の預金通帳(法人調査の場合に確認されることもあります)
- 人件費関係: 源泉徴収簿、扶養控除等申告書、社会保険関連書類、タイムカード、従業員名簿など
- その他: 固定資産台帳、契約書、議事録など
2-4. 調査当日
税務署職員が来訪し、調査が行われます。
- 調査官の身分証明書の確認: 最初に調査官の身分証明書を確認しましょう。
- ヒアリング: 会社の設立経緯、経営者の経歴、事業内容、得意先・仕入先、業務フロー、従業員の状況などについて質問されます。最初は雑談のような形で質問されることも多いですが、これも調査の一部です。
- 帳簿書類の確認: 提出された帳簿書類と申告内容が一致しているか、経費の計上などが適切か、期ずれがないかなどを細かく確認されます。必要に応じて、領収書、請求書、通帳などと照合されます。
- 反面調査: 納税者の回答や提出資料に疑義がある場合、取引先や金融機関に対し、事実関係を確認する反面調査が行われることもあります。
- 資料の預かり: 必要に応じて、帳簿書類などの資料を預かることもあります。その場合は、リストを作成してやり取りを明確にしておくことが重要です。
2-5. 調査結果の連絡・指摘事項への回答
調査最終日に、調査官から調査結果の報告と指摘事項の説明がなされます。指摘事項に対しては、事実に基づいて誠実に回答し、不明な点があれば質問して確認しましょう。曖昧な回答や、聞かれていないことまで話すのは避け、質問されたことに簡潔に答えるように心がけます。
2-6. 修正申告・更正・申告是認
調査の結果、以下のいずれかの結論になります。
- 申告是認(問題なし): 申告内容に問題がないと判断された場合。是認通知書が交付されます。
- 修正申告の勧奨: 申告内容に誤りがあった場合、税務署から修正申告を勧奨されます。修正申告をすることで、追徴税額や加算税・延滞税が発生します。
- 更正: 納税者が税務署の指摘を認めず修正申告に応じない場合、税務署が一方的に課税処分を行うことです。更正処分に対しては不服申し立てをすることができます。
3. 税務調査の主な取り組み・チェックポイント
税務当局は、納税の公平性を確保するため、様々な視点から調査を行っています。近年特に注目されているのは以下の点です。
3-1. 国税当局の重点調査項目
国税庁は毎年「国税庁レポート」などで、その年の税務行政の現状や重点的な取り組みを公表しています。
- 消費税の適正課税の確保:
- 虚偽の申告による不正還付を防ぐための審査・調査。
- 輸出物品販売場制度の悪用など、不正な免税取引への対応。
- 資産運用の多様化・国際化への対応:
- 海外への投資や海外取引に関する調査。国外送金等調書や共通報告基準(CRS)など国際的な情報交換制度を活用し、富裕層の海外資産や所得の捕捉を強化しています。
- 無申告者の把握:
- 事業実態があるにもかかわらず、税務申告をしていない個人や法人に対する調査。
- シェアリングエコノミー等新分野の捕捉:
- 新しいビジネスモデル(シェアリングエコノミーなど)における取引の適正な把握。
- データ活用の取り組み強化:
- 様々なデータ(提出された申告書、支払調書、法定調書、他からの情報など)を分析し、潜在的なリスクのある納税者を抽出する予測モデルを構築し、効率的・高度な調査を進めています。
3-2. 税務調査で特にチェックされやすい項目
- 売上の計上時期・計上漏れ:
- 売上が適切に計上されているか、特に期末前後の売上計上時期(期ずれ)や、現金売上の計上漏れがないかなどを重点的に確認します。
- 経費の妥当性・計上時期:
- 事業に関係のない個人的な支出が経費に計上されていないか、架空経費がないか、領収書や請求書が適切に保管されているかなどを確認します。
- 交際費、旅費交通費、福利厚生費などは特に厳しくチェックされます。
- 修繕費か資本的支出かの判断も確認されやすいポイントです。
- 人件費・給与の処理:
- 架空の人件費計上、役員報酬の不当な引き上げ、源泉徴収の適正性などを確認します。従業員名簿やタイムカードなどもチェックされることがあります。
- 棚卸資産の評価:
- 期末の棚卸資産が正確に評価・計上されているかを確認します。
- 消費税の計算ミス・未納:
- 消費税の計算方法(原則課税・簡易課税)、課税売上高、仕入税額控除の適用などが適切か確認されます。特に、高額な還付申告は重点的に調査される傾向があります。
- 預貯金口座との整合性:
- 帳簿上の金額と預貯金口座の入出金記録に大きな乖離がないかを確認します。
4. 税務調査への主な取り組み(納税者側の対策)
税務調査に備える上で、日頃からの適切な税務処理と準備が重要です。
4-1. 日々の取引を正確に記帳・整理する
- 証拠書類の保管: 領収書、請求書、契約書、預金通帳など、全ての取引に関する証拠書類を整理し、適切に保管します。
- 帳簿の正確性: 売上や経費の計上時期を適切にし、記帳ミスや漏れがないように正確に記帳します。会計ソフトやクラウド会計サービスを活用すると、効率的に管理できます。
- 定期的な確認: 月次や四半期ごとに収支を確認し、帳簿と銀行口座の残高を照合するなど、定期的なチェックを習慣化します。
4-2. 税理士との連携
- 顧問税理士の活用: 税理士は税務調査のプロフェッショナルです。日頃から顧問税理士に相談し、適切なアドバイスを受けることで、税務リスクを軽減できます。
- 税務代理権限証書: 税理士に税務代理権限証書を提出しておけば、税務調査の事前通知は税理士に連絡され、調査当日の立ち会いから税務署とのやり取りまで、税理士が代行してくれます。これにより、納税者の負担を軽減し、適切な対応が可能になります。
- 事前の打ち合わせ: 税務調査の連絡があったら、すぐに税理士と打ち合わせを行い、準備を進めます。想定される質問や指摘事項について、税理士と共有し、回答方針を定めておきましょう。
4-3. 調査当日の対応
- 誠実な対応: 調査官の質問には、事実に基づいて誠実に、かつ簡潔に答えるように心がけます。
- 聞かれたことだけを話す: 余計な情報や、聞かれていないことまで話すと、新たな疑問を招く可能性があります。
- 曖昧な回答を避ける: 不明な点や不確かなことについては、「確認します」と伝え、安易に答えないようにしましょう。
- 書類のコピー: 提出を求められた書類は、事前にコピーを取っておくことをお勧めします。
- 調査官の身分確認: 調査開始時に、調査官の身分証明書を必ず確認しましょう。
【参考資料】
令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁 令和6年11月)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf
